2015年から40代は胃がん検診の対象としない方向で国の方針が変更になりました。
この変更の妥当性について検討してみました。
まとめ
NNS(Number Needed to Screen) 1000名以下が検診として適格であるという基準を是とするなら、検診対象年齢として検討の余地が残るのは40代後半の男性のみです。
つまり40代女性、40代前半の男性を検診対象外とするのは妥当だと考えます。
40代後半男性に関しても既知のデータからは検診対象外とする判断はほぼ妥当だと思います。
40代のがん検診を中止することによる影響は、40代のNNSを5000、40代人口を17,000(千人)、がん検診受診率を30%と仮定すると、検診により防ぎ得た40代胃がん死1000名程度が生じる事になります。
検討を必要とするのはNNS 1000名、要精査数 100名という基準そのものです。
他のがん検診やがん以外の検診を含めて妥当性の検証が必要です。
以下は詳細な情報です。
根拠となる文献について
2015年の胃がん検診の変更の根拠となっている文書は以下のものだと思います。
『有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版』
クリックしてigankenshinguideline.pdfにアクセス
上記文書から本問題を考察するために重要な箇所を引用します。
「推奨グレードA あるいはB と判断された方法については、NNS (number needed to
screen)や罹患率・死亡率などの観点から対象年齢を検討する。また、採用された評価研究をもとに、対象年齢および検診間隔を検討する。」(p.15)
→ 具体的には胃X線検診と胃内視鏡検査に対してNNSを算出しています。
「NNS1,000 人、1 人の胃がん死亡を避けるために必要な要精検者数100
人という基準は、異なる臓器を対象とした検討では同様の基準を用いることができず、今後、その妥当性について検討すべきである。」(p.27)
→ NNS1000人、要精検者数100人をカットオフ規準としていますが、妥当性は検証されていません。
実際のデータ(NNS)はpp.74-78にまとめられています。
NNSの計算根拠となっている1次研究について
NNSの計算に必要な数値は、「10年間の胃がん死亡リスク(%)」、「検診による死亡率のオッズ比」の2つのみです。
「10年間の胃がん死亡リスク(%)」に関しては、『国立がん研究センター
がん情報サービス・がんの統計’12』が使用されています。現在の日本ではこれに代わるデータは存在しませんので、こちらは異論は生じにくいだろうと思います。
一方、「検診による死亡率のオッズ比」では、複数の研究からの数値が使用されています。
具体的には、胃X線検診では阿部(1995)、深尾(1995)、Hamashima(2013)の3研究が、内視鏡ではHamashima(2013)の1研究のみが使用されています。
(今回問題となっている40代に関しては、胃X線検診では阿部(1995)、Hamashima(2013)の2つ、内視鏡ではHamashima(2013)の1研究の報告しかありません。)
胃X線のNNS
全体的な傾向としては、以下のことが指摘できます。
- 年齢が上昇するにつれオッズ比は上昇する傾向がある(必ずではありません)
- 同年代では女性のオッズ比が高い傾向が見られる(こちらも必ずではありません)
- Hamashima(2013)はスクリーニングの効果を保守的に(=オッズ比を高めに)評価している
- Hamashima(2013)では年齢によるオッズ比の差は検出されませんでした
阿部(1995)とHamashima(2013)ではオッズ比に大きな食い違いがあります。
問題となる40代では以下のようになります。
阿部(1995)の数値を採用した場合、男性で45歳のNNSは1005、50歳のNNSは538、女性で45歳のNNSは6103、50歳のNNSは1064となります。
Hamashima(2013)では、男性で45歳のNNSは6665、50歳NNSは2990、女性では45歳のNNSは10036、50歳のNNSは6303となります。
研究年代の違いを考慮するとHamashima(2013)を重視するのが妥当だと思いますが、阿部(1995)の数値によれば40代後半の男性はNNS
1000を切っており検診の対象とすべきという結論を導くことも可能だと思います。
内視鏡検査のNNS
内視鏡に関してはオッズ比を計算している研究がHamashima(2013)しかありませんので、研究間の齟齬の問題は生じませんが、胃X線での傾向を踏まえるとスクリーニング効果を保守的に見積もっている傾向はあるかもしれません。Hamashima(2013)では全年齢を通してオッズ比を0.695と推定しています。
しかしながらNNS 1000をカットオフとする場合、そもそもの10年間の胃がん死亡リスクが0.1%以上でなければいかなる検診によってもNNS1000を切ることは不可能です。その観点からしますと、40代の女性に関しましては検診不要との結論は妥当であろうと思います。男性に関しましては40代後半から50代にかけてかなり急激に死亡リスクが上昇し(45歳0.11%、50歳0.25%)ますので議論の余地はあります。
試算しますと男性45歳ではオッズ比0.1、50歳ではオッズ比0.6程度でNNS
1000の基準を満たします。Hamashimaのオッズ比0.695との乖離を考えますと、これが0.1まで行く可能性は低いでしょうから、40代後半の男性はややグレーゾーンですが、対象としないとの判断はおそらく妥当であろうと思います。


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