3-01-(1) 放射線腫瘍学の生物学的基礎ー細胞レベルの放射線生物学

直接作用と間接作用

  • 直接作用(direct action) : 放射線が生体物質を直接電離させること
  • 間接作用(indirect action) : 放射線が生体物質以外の物質(水など)を電離させ、その結果生じたラジカルなどが生体物質に影響を及ぼすこと

  • 間接作用で発生するラジカルは寿命が短く(10-^5sec程度)、移動できる距離も短い。生体物質の近傍(半径2nm以内)に生じた場合のみ、影響を与える。

放射線による細胞死

  • 放射線生物学では(無限)増殖能を失うことを細胞死と定義する。最初から分裂能を失っている正常細胞(筋細胞、神経細胞)などにはこの概念は適用しない。

  • 放射線による細胞死にはいくつかの形式がある。Apoptosis、Autophagy、Necrosis、Senescence、Mitotic catastropheなど

アポトーシス(=プログラム細胞死)

  • 細胞は細胞膜のバリア機能を保ったままアポトーシス小体という断片になる → 周辺のマクロファージなどがアポトーシス小体を貪食する → 炎症なしに非常に短時間に細胞は処理される

Autophagy(=自食)

  • 細胞がストレスにさらされる → 細胞質中にオートファゴソームと呼ばれる小胞が形成される → オートファゴソームとリソソームが膜融合し、内部の蛋白質が分解される

Nectosis

  • 外的・内的損傷による細胞の受動的な死

Senescence

  • 照射後に、細胞が分裂能を失いつつも生理的機能を維持し、老化様の巨細胞となること

Mitotic catastrophe

  • 多核巨細胞である
  • DNA損傷が修復されずに分裂期にはいることによって生じる。
  • 染色体異常やmicronucleiを持つ。
  • apoptosis、autophagy、necrosis、senescenceの原因となることもある。

臨床における放射線細胞死

  • リンパ球(その腫瘍としての悪性リンパ腫)は低線量で高頻度にアポトーシスを起こし放射線高感受性である。0.5Gyの全身被ばくで末梢血リンパ球は減少する
  • 多くの固形腫瘍や線維芽細胞の細胞死の形態は、主にnecrosis、senescence、mitotic catastropheである

アポトーシスの分子メカニズム

  • (1)DNA損傷を起源とする場合、(2)細胞膜近傍を起源とする場合の2つが知られている
  • p53はDNA損傷起源時のみ関与する。細胞膜近傍起源例では関与しない。

p53

  • p53は最も重要ながん抑制遺伝子
  • 正常DNAの維持、異常細胞/不要細胞の除去を主な目的とする

放射線によるDNA損傷

  • 放射線によるDNA損傷の種類は100種類以上報告されているが、放射線によってのみ生じる特異的損傷は存在しない
損傷形式 X線1Gyでヒト細胞1個あたりに生じる損傷数 修復形式
塩基損傷 6400個 塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復
DNA-タンパク質架橋 150個 ヌクレオチド除去修復
1本鎖切断 600-1000個 ショートパッチ経路、ロングパッチ経路
2本鎖切断 16-40個 非相同末端結合(NHEJ)、相同組換(HR)

非相同末端結合 NHEJ:non-homologous end-joining

  • 鋳型となるDNAを必要としない → 細胞周期に関わらず修復可能であるが、修復が不正確
  • NHEJ は免疫グロブリンやT細胞受容体の多様性を生み出すためのV(D)J組換えと共通の機構を用いている

相同組換え (HR:homologous recombination)

  • 姉妹染色体の相同鎖を鋳型としてDNA合成が行われる → S/G2でしか作用でいないが正確な修復である
  • HRはS/G2期の放射線抵抗性の原因と考えられている

潜在的致死障害の修復(potentially lethal damage repair : PLDR)と亜致死障害の修復(sublethal damage repair : SLDR)

  • PLDRとSLDRはDNA二本鎖切断修復に関与する遺伝子がクローニングされる以前の現象論的概念である
  • PLDRとSLDRは4-6時間程度で完了する。これはDNA二重鎖切断修復に要する時間に一致する。
  • 高LET放射線ではPLDRとSLDRはないか、あっても小さい

放射線高感受性遺伝病

  • 毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia AT)

    • 正常細胞にはG1/S期、S期、G2/M期の3つの細胞周期チェックポイントがある
    • AT患者の細胞では3つのチェックポイント全てに異常がある
  • MNR複合体異常の遺伝性疾患

  • その他の放射線高感受性遺伝病
    • BRCA1,BRCA2変異患者は軽度の放射線高感受性を示す。
    • BRCA1,BRCA2は相同組換え(HR)に関与する。

放射線による細胞周期の停止

  • 放射線により細胞周期は3つの位置(G1/S期、S期、G2/M期)全てで停止する。
  • p53が関与するのはG1/Sチェックポイントのみである。
  • 多くのがんではp53遺伝子に異常を認める

細胞周期と放射線感受性

  • G0期はG1期の一部である。分裂を一時停止しした状態である。
  • G2-M期は最も放射線高感受性、S-G2期は最も放射線抵抗性。

線量率効果

  • 線量率効果とは、線量率が大きく照射時間が短くなると同じ線量でも生物学的効果が大きくなる現象。
  • 細胞生存率曲線の肩の大きさはDNA二本鎖切断(亜致死障害)からの回復能が高いことを示す

逆線量率効果とは

  • ある特定の線量率域で最も生物学的効果が高くなり、それより線量率が低くても高くても生物学的効果が低下する現象
  • HeLa細胞など一部の細胞で観察されている

線エネルギー付与(linear energy transfer :LET)

  • 放射線生物学的効果の評価に有用な指標の1つ
  • これ自体は物理学的指標
  • 単位飛程あたりのエネルギー損失のこと
  • 単位はkeV/μm
  • LETは高い順に以下の通り。①核分裂生成物>②低原子番号の原子核>③α線>④中性子線>⑤低エネルギーの陽子線、電子線、X線、γ線>⑥高エネルギーの陽子線、電子線、X線、γ線

生物学的効果比(relative biological effectiveness : RBE)

  • 異なる種類の放射線の生物効果を比較するための指標
  • 基準放射線との比較でRBEを定める
  • 基準放射線は主に250KvのX線が用いられる
  • RBE = ある生物効果を生じるのに必要な基準放射線の吸収線量 / 同じ生物効果を生じるのに必要な対象となる放射線の吸収線量

  • RBEは基準放射線、対象放射線の組み合わせが同じであっても、指標とする生物効果によって異なる値を示す

  • RBEはLET、線量、治療期間、線量率、分割回数によっても影響を受ける。

酸素効果と酸素効果比 oxygen enhancement ratio : OER

  • 酸素効果発現関与するのは照射中の酸素濃度である。照射後に酸素濃度を変化させても酸素効果は生じない。
  • OER = 酸素のない条件下である生物効果を生じるのに必要な線量 / 酸素のある条件下で同じ生物効果を生じるのに必要な線量
  • 無酸素化のOERは1,100%酸素下で約3である。
  • 正常組織の酸素分圧≒静脈血やリンパ流の酸素分圧≒20-40mmHgである

LET、OER、RBEの関係

  • RBEはLETが100-200keV/μmで最大となり、これより低くても高くても減少する
  • OERはLETが200keV/μm付近で1となり、それ以上LETが高くなっても変化しない
  • 放射線治療にとってよいことはRBEが高く、OERが低い状態と考えられる → 上記の性質と考え合わせると、RTの至適LETは100-200keV/μmと考えられる。

粒子線治療

  • 粒子線には中性子(neutron)、陽子(proton)、負パイオン(negative pion,Π)、重イオン(炭素イオン、鉄イオンなど)がある
  • 粒子線は低LET放射線とは異なる物理的、生物的特性を持つ

  • 中性子線にはBragg peakがない。

  • 中性子線以外の粒子線はBragg peakを持つ(飛程の最終直前で大きなエネルギー付与が起こる)
  • Bragg peakに相当するものとして負パイオンではスターを形成する。

  • 物理的特性としては、線量集中性が良く(中性子線を除く)、高LETである(陽子線を除く)

  • 生物的特定としは、放射線障害からの修復が少なく(陽子線を除く)、RBEが大きく(陽子線を除く)、OERが小さく(陽子線を除く)、細胞周期依存性が少なく(陽子線を除く)、分割照射による損傷の修復・晩期障害の軽減は起こらない(陽子線を除く)。

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