ホテルにある『仏教聖典』はどのような本なのか?

ホテルには聖書がたいてい置かれている。これは国際ギデオン協会というクリスチャンのボランティア団体が無料配布しているものである。

仏教聖典』なる本もホテルに置かれていることもある。これは何なのだろうと疑問に思ったので少し調べてみた。こんな感じの表紙の本である。

『仏教聖典』は、公益財団法人 仏教伝統協会という団体が作成、配布している本である。この団体はギデオン協会のような国際的団体ではなく日本の団体である。公式ホームページの説明によると、「特定の宗派に偏らず、宗教、民族を越えた活動をしております。」とのことである。日本の仏教団体であるから、基本的には大乗仏教の超宗派的団体であろう。

そして当の『仏教聖典』の編集方針は以下のように説明されている。

仏教伝道協会では、『大般涅槃経』『梵網経』『維摩経』『転法輪経』『華厳経』『遺教経』『無量寿経』『法華経』など漢訳経典として日本に伝わった5千余巻の根本聖典だけでなく、スリランカやタイなどに伝わったパーリ語聖典からも、我々の現実生活に対して最も深いつながりをもった、親しみのある教えなど、特に重要なところを慎重な配慮のもと偏りなく抽出し、「仏教聖典」として誰もが手軽に読めいつでも心の糧にすることのできるよう、やさしくわかりやすい現代の言葉に翻訳・編集しました。

要するに上座部および大乗の仏典から、仏教伝道協会が「特に重要」と判断した所を抽出した本という主旨のようである。

実際には仏教は、上座部・大乗・密教の3つに大きく分類されており、根本的に両立しえない要素を互いに含んでいると私には思われる。これらの区別なしに仏教全体を1冊にまとめることは不可能ではないかと思う。

一方で仏教は”洗練された常識”と呼ばれることがあるように、仏教とわざわざいう必要もないような常識的な教えも多々含まれている。そうしたものを抽出してみようということであれば、大変に有意義な試みなのではないかと思う。案外これは、ナイトスタンド・ブディストの先がけのような試みだったのかもしれない。ナイトスタンド・ブディストとはなんぞやということは以下の記事がわかりやすい。

東京禅センター | 妙心寺

しかしそういうことなら、もはや仏教の枠にこだわらず、世界の名言のような形がベターかもしれない。そこまで行くともはや、形式的には引用でああるが、内容的には編集者の価値観を反映した著作と言うべきかもしれない。トルストイの『文読む月日』のようなものだろうか。

宗教、思想との正しい付き合い方は、生涯かけて様々な言葉に触れながら、自分がこれだと思えるものを集めていく地道な作業を繰り返すこと、自分版の『文読む月日』を作りあげることなのかもしれないと思うこの頃である。

 

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