臨床研究をするためには、臨床研究のお作法(=方法論)を知る必要があります。先輩の言葉を信じ、先行論文を読めば自然に正しい臨床研究の方法が身につく、という状態には現状は達していません。出版されたものを含め方法論的に残念な研究も少なからずあり、この状況を改善するために臨床研究のガイドラインが近年、多数作成されています。
臨床研究の方法論を学ぶ手引としては福原俊一先生のグループが出している本が良いと思いますので、まとめてみました。
福原先生の自著です。福原先生グループの本から1冊選ぶならこれです。臨床研究の方法論全体を扱った概略本です。本書を読むと、臨床研究の方法論において統計学が占めるのはあくまで一部であり、統計学以外に考慮しなければいけないことが多数あることがわかります。統計学のことも触れられていますが、統計学の本ではないと断られている通り、統計学に関する記述は不十分です。
臨床研究の方法論上、重要なテーマを抽出し、1冊1テーマで掘り下げているのが以下の『臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト』というシリーズです。
リサーチ・クエスチョンの作り方 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
漠然とした臨床上の疑問(クリニカル・クエスチョン)を、研究によって検証可能なリサーチ・クエスチョンに変換することが臨床研究において何よりも重要だと訴える一冊です。当たり前のことですが、あえてこのことをはっきりと強調した本は乏しかったと思います。実際の現場では逆の発想、なんとなくデータを収集して、あれこれ解析して何か有意差を探す、ということもまれではありません。
概念モデルをつくる (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト) (シリーズ・臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
概念モデル(概念図)の作成は統計解析の出発点でもあります。概念図を作成して、研究データを集めれば自動的に解析が終わるソフトすらあります。しかし概念図作成段階のことをあえて掘り下げた本は少なかったと思います。
いざ、倫理審査委員会へ―研究計画の倫理的問題を吟味する (シリーズ・臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
診断法を評価する (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
診断の研究と治療の研究では統計手法が異なります。診断の研究のための手法を扱った本は少ないので貴重な一冊です。
サンプルサイズの設計 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
解析手法ごとにサンプルサイズの計算式が紹介されています。しかし羅列的な印象が否めません。検定力分析の実際について記述した本が少なかったという点ではテーマ選択は優れていますが、内容は煮詰め方が足りないように思います。
メタアナリシスの考え方に触れることができます。実際にメタアナリシスができるようになるには更に他の本も読む必要があるでしょう。メタアナリシスはマルチレベル分析の一種ですので、マルチレベル分析の概念に馴染んでおくと理解が進みやすいと思います。
次にご紹介するのは『臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト』シリーズではありませんが、福原先生のグループの本です。
QOL研究は医療系の分野ですが、理論的基盤は心理学(心理統計)です。具体的な統計手法としては「因子分析」が中心となります。これに対し医療系で頻用される手法は、群間差の検定、カイ二乗検定、(単/重)回帰分析、ロジスティック分析、生存時間分析などです。ここに隙間が生じており、医療系においてこの分野の解説本が手薄でした。それを埋めるために役立つ一冊です。
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