英EU離脱(Brexit)に関して、ネット上には大量のニュースがあふれたが、ネットニュースの常ですぐに消えてしまうし、内容を精査してみると大事な情報が書かれていないなどの不備も多い。しかし大変重要な出来事であり、それがどのように報道されたのかということは、今後人生を生きていく上で重要なデータとなると考え、情報を整理集約しておくことにした。
略史
2012 キャメロン首相は英のEU離脱に関する国民投票を拒否した。しかし大衆の支持を得るため将来の国民投票の可能性を示唆した。
2013 キャメロン首相は2015年の選挙に勝てた場合(=再選し政権維持できた場合)、2017年までに英EU離脱に関する国民投票を実施することを公約した。
2015 保守党が選挙に勝利。その後速やかに国民投票を可能にする法律(European Union Referendum Act 2015)が可決される。この際、キャメロン首相は保守党の大臣、議員はEU離脱に関して自由な運動を繰り広げることができることを公約した。
2016/02/22 キャメロン首相はEU離脱の国民投票を2016/06/23に実施することを公約した。この際、もし国民投票でEU離脱が決定した場合、リスボン条約第50項の手続きに乗っ取り、離脱の手配の交渉を行う2年間の期間に移行することを公約した。
2016/06/16 英労働党の下院議員ジョー・コックス(41歳,女)が離脱派に殺害される。(殺害したトミー・メイアー(52歳,男)は、コックス議員を拳銃で撃った後に刃物で刺しながら「ブリテン・ファースト(英国第一)」と複数回叫んでいたとされる。)
2016/06/23 英EU離脱の国民投票(referendum)実施
結果は以下の通り。
離脱(51.9%;17,410,742票)、残留48.1% (16,141,241票)、投票率72.2%、無効票(26,033 票)。
2016/06/24 選挙結果を受けてキャメロン首相が辞意を表明
日本の相場への影響
2016/06/24
ドル・円相場は1ドル=99円2銭と2013年11月以来の100円割れとなる。
日経平均は1万4952円(前日比1286円、8%安)となる。2000年4月以来の急落で過去8番目の大幅下落となる。
開票前の予想
ジョー・コックス議員殺害前は離脱派有利との報道が多かった。しかしこの事件を機に残留派が盛り返し優位になったとの報道がみられた。
選挙当日、開票開始直後は残留派が僅差で勝利との報道がなされていた(例えばYouGov社は選挙当日の世論調査を行い残留52,離脱48と残留が若干上回っていると報告した)。
開票後の経過
日本時間午前8時時点 残留派リード
日本時間午前8時30分時点 離脱派リード
日本時間午前9時時点 離脱派リード
日本時間午前9時30分時点 離脱派リード
日本時間午前10時時点 離脱派リード
日本時間午前10時30分 残留派リード
日本時間午前11時 残留派リード
日本時間11時30分時点 離脱派リード
日本時間午前12時時点 離脱派リード
日本時間午後0時30分時点 離脱派リード
日本時間午後1時時点 離脱派リード
日本時間午後1時30分時点 離脱派リード(15,920,478対14,840,629)残るは26箇所
日本時間午後2時時点 離脱派ほぼ半数獲得!(16,835,512対15,692,093)残るは8箇所
日本時間午後2時30分時点 4か所残して離脱派勝利確定!(17,061,744対15,864,555)
日本時間午後3時【最終結果】離脱派51.8%獲得で勝利(17,410,742対16,141,241)
一連の出来事、報道から言えること
残留、離脱の途中段階の報道は全くあてにならなかった。最も正確に予測できるはずの、結果判明数時間前ですら残留という報道もあった。今後も同様の重大な社会的イベントは起こり、その度にマスコミはああだこうだと報道するだろうが、少なくとも僅差の予測は全く当てにならないと考えるべきである。
英EU離脱の報道を受けて、これは英国民の総意であるにも関わらず、愚かな国民が間違った選択をした、国民投票は危険だ、というような報道が多数なされた。例えば2016/06/25の日経新聞は社説で、世界史上、国民投票によって民意をよく問うたのはナチスであったといい、まるでキャメロン首相が国民の意志を問うたことを愚策であったかのように記述している。
国民は愚かで扇動されやすく、国の大事について、国民の直接投票によって意志を決定することは危険であると主張する人は、一体自分をどのような賢者だと認識しているのだろうか。国民の意志を直接問い、国民が答え、それによって自治していこうと決断するイギリスという国は素晴らしい国だと私は思う。人間の判断ゆえそれが後の歴史から見て、それが正しいことも誤ってとされることもあろう。しかし自分の頭で考え、自分の責任で決めることをやめてしまったら、それは生きながら死んでいるようなものである。
私は英国の国民投票を見て政治に希望を感じた。日本も重大なことを国民投票で決められる国になって欲しいと思う。国民投票危険説を流す人々は、日本人が英国を見て、そんなふうに目覚めるのを恐れているのではないだろうか。
今回の国民投票に数年間に渡る経緯があるが、自分にとって有利でなくとも、やると言った公約をしっかりと守ったキャメロン首相と守らせた英国民は立派である。日本の政治家の公約とは大きな違いである。
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