独学者は何をどういう順番で読んだらいいのかもわからないものです。自分自身も独学者なので、自ずと目を通す本の数はどうしても多くなります。後から振り返ると、この本をこういう順番で読めばもっと効率的だったんじゃなかろうかと気づくわけですが。
同じように独学で統計学を勉強している方(初心者~基礎レベルの方を想定しています)が、効率的によい本に巡り会えることを願って、オススメ本のリストを作ってみました。
一口に統計の勉強といいますが、実際には内容によって幾つかのカテゴリーに分類できます。私の考える分類は以下のようなものです。
- 統計学入門(統計学に親しむための気楽な肩慣らし)
- 統計学総論(学問分野に特化しない統計学全般の基礎知識)
- 統計学各論(各学問分野で頻用される統計手法の知識)
- 統計ソフトの使用法
- 統計結果を論文に書く方法
- 基礎数学(統計学を理解するのに必要な数学)
- 数理統計学(作成予定)
統計学入門
向後千春先生による2冊をオススメします。物語形式で読みやすく、統計学的概念に親しむことができる良書です。
統計学総論
南風原朝和先生(心理学者)の3部作があります。
『心理統計学の基礎』が入門となる教科書です。心理統計学の本ですが、心理学に限定せず、統計学総論としても有益な内容です。(ただ心理学では必須な統計手法である因子分析は、学問分野によってはほとんど使わないかもしれません。)
『心理統計学ワークブック』はこれに対応した問題集です。問題集形式でやってみるとわかったつもりでわかっていない部分が確認できます。それは教科書の読み手の問題もあるのでしょうが、教科書というコミュニケーション形式に内在する制約もあると思います。
『続・心理統計学の基礎』は『心理統計学の基礎』の続編ですが、難易度にかなり開きがあるように思います。なのですぐに続けて読むべきとは断言できません。他の本で知識を深めてから読んだ方がいいかもしれません。
宮川公男先生(経営学者)の教科書も素晴らしい出来です。
『心理統計学の基礎』が題名通り、心理学の研究で使用する統計の基礎全般を扱っているのに対し、『基礎統計学』はより一般的な統計学の基礎部分に焦点をあてています。具体的には確率論、分布論などの数理的な基礎の部分を丁寧に扱っています。一方で対象とする統計手法の範囲としては多変量解析の導入くらいまでで、因子分析などは扱っていません。
『心理統計学の基礎』と『基礎統計学』の2冊がミニマムエッセンスだと思います。どちらから先に読んでもいいと思いますが、数式に馴染みが薄いなら『心理統計学の基礎』が先の方が読みやすいかもしれません。
統計学各論(手法別)
統計手法ごとの解説とRでのスクリプトが欲しい場合、豊田先生のグループが出している以下のシリーズが便利です。
「Rで学ぶ」という書名ですが、本の内容は一般的な統計学の手法の解説がメインでありであり、Rの使い方は各章末にスクリプトが数ページついている程度です。なのでRに全く触れたことがない場合は、Rの入門書を先に読まないとさすがにこの部分は使いこなせないでしょう。逆に言うとRの部分は無視して統計学の本と割りきって読むことも可能です。
縦断データの分析
縦断データの分析は横断データの分析より難しいです。横断データが個人×変数の2次元データであるとすると、縦断データはこの2次元データを複数時点で収集した3次元データだからです。従って学習の順序としては本来は、まず横断データの分析を勉強して基礎を固めてから縦断データの分析の勉強に移るのが理解を進めやすいと思います。
具体的な縦断データの分析は、(1)経時的変化の分析 (2)イベント発生の分析に2分されます。以下2冊はそれぞれに焦点を当てています。日本語では2冊に分冊されていますが、英語の原書は1冊の本で連続した話になっているので、基本的には順番に読むのがよいと思います。
臨床研究のデータ解析としておそらく一番使用される手法は生存時間分析です。統計学的には縦断データの分析手法の1種であり、横断データの分析の発展形です。
統計学各論(医学統計)
新谷歩先生の良書です。初めて医療統計に触れる方にオススメです。医療系の方が実際に論文を読んだり書いたりする際に即戦力になるような情報がたくさん詰まっています。医療統計の手法の選択の表は一見の価値があります。
英語ですが、Dummiesシリーズですので比較的平易です。この手のシリーズがキライでない方は読んでみてもよいと思います。
医療統計学は統計学の立場から見ると、臨床研究の中で使用される統計学の一分野です。逆に臨床研究の立場から見れば、医療統計学は臨床研究の方法論を構成する一分野にすぎません。
独学者が臨床研究の方法論を学ぶための本に関しては、以下の記事をご参照下さい。
https://clover.fcg.world/2016/04/24/3509/
統計学各論(心理統計)
統計ソフトの使用法
ここは実際に使用するソフトによって異なる部分です。私が触ったことのあるのはRとJMPです。Rはこちら。
統計結果を論文に書く方法
APA(アメリカ心理学協会)による論文作成のマニュアルです。統計結果の提示方法のみならず論文作成の全範囲をカバーした内容ですが、統計結果の提示のところも十分に読み応えがあります。
基礎数学(統計学を理解するのに必要な数学)
こちらの記事をご参照下さい。
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